法定相続人と相続分

○法定相続人と相続分

 民法では、相続人や相続分を、以下のように定めています。

相 続 人 法定相続分 備 考
第1順位 配偶者 1/2
子(養子・婚外子・胎児を含む) 1/2 人数で按分する
第2順位 配偶者 2/3
直系尊属(父母・祖父母) 1/3 親等の近い者で按分する
第3順位 配偶者 3/4
兄弟姉妹 1/4 人数で按分する
配偶者 全 部 他に相続人がいない場合

・順位が上の相続人がいない場合に限り、下の順位の者が相続人となります。
・配偶者がいない場合は、各順位の相続人の人数で按分します。
・胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなします。
・子が先に死亡している場合は、孫やひ孫が相続人となります(代襲相続)。
・兄弟姉妹が先に死亡している場合は、甥や姪が相続人となります(代襲相続)。
・親の片方のみが同じ兄弟姉妹は、双方が同じ兄弟姉妹の半分となります。

法定相続分

○特別受益と寄与分

1.特別受益とは

 相続人の中に、結婚の費用や住宅の取得資金、日常の生活費として被相続人から贈与を受けた人がいる場合、相続人同士で不公平にならないように、これらの財産は「遺産を先もらいしたもの(特別受益)」として、いったん遺産に戻したうえで各相続人の相続分を計算します。これを「特別受益の持ち戻し」といい、そのような生前贈与を受けた相続人のことを「特別受益者」といいます。

 例えば、被相続人には死亡時に3000万円相当の財産があったとします。相続人は妻と長男です。この場合、単純計算では、法定相続分は妻も長男も各2分の1なので各1500万円です。ただし、仮に妻が被相続人である夫から生前に2000万円相当の住宅の贈与を受けていた場合には、その2000万円を遺産に戻してから法定相続分を計算します。つまり、死亡時の3000万円の遺産に生前贈与分の2000万円を加算して5000万円とし、それを法定相続分で分けるため、妻は2500万円、長男も2500万円の相続分となります。ただし、妻は2000万円相当の住宅を先にもらっている(特別受益)ため、今回の相続ではその分を差し引いた500万円を相続することになります。

 ところが、それだと妻は老後の生活費が不足するかもしれません。上記の例では、死亡時の遺産が3000万円あるので、まだ妻は500万円は相続する権利がありますが、死亡時の遺産が2000万円しかなかった場合、計算上は1円も相続する権利がないことになってしまいます。

 このような場合、贈与をした夫が、生前の意思表示もしくは遺言で「妻に贈与した2000万円相当の住宅については、私の遺産相続の際には別枠として扱う(もらいっぱなしでいい)」というような意思表示をしていれば、上記のような「特別受益の持ち戻し」の計算をする必要はなく、単純に死亡時の遺産3000万円を長男と2分の1ずつで分け合うことになります。これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます。

 しかし、実際には、このような意思表示は、あまりされないか、されたとしても口頭だけで、証明することが困難なことが多いと言えます。そこで、近年の民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で2019年7月1日以降に居住用不動産の遺贈や贈与がされた場合には、その不動産については原則として特別受益に含めない(持ち戻し免除)意思表示があったものとして扱われます。

 ただし、ここで「持ち戻し免除の意思表示」が推定されるのは、贈与または遺贈された財産が「居住の用に供する建物またはその敷地」の場合です。生活費などの贈与は含まれませんので、注意が必要です。

2.寄与分とは

 民法では、相続人の中に、被相続人の事業を手伝うなどして、その財産を増やすことに特に貢献した人や、被相続人の療養看護などに努めて、その財産を維持することに特に貢献した人(特別の寄与をした人)がいるときは、その「手柄のあった分(寄与分)」をその人の法定相続分に上乗せして、遺産を相続することを認めています。

 例えば、被相続人とその長男が一緒にお店を経営していたとします。長男の才覚や努力の結果としてお店が繁盛し、被相続人の財産も増えて2億円の財産を遺しました。この場合、相続人が長男と二男で、二男は公務員で特に父親の事業には関与していなかったような場合に、財産を1億円ずつ兄弟で分けるというのは「公平」ではありません。そこで、このような場合には、兄の父の事業に対する貢献度(寄与分)を例えば1億円と評価した上で、残りの1億円を法定相続分で兄弟5千万円ずつ相続し、兄はこの5千万円に寄与分の1億円を足した1億5千万円を相続するという制度です。

 また、被相続人の財産を「増やす」ことに貢献した場合だけではなく、「維持した(減るのを防いだ)」場合であっても、寄与分の制度は適用されます。したがって、子が親の介護をした場合についても、その介護がなければ親は自分の財産を取り崩して、有料の介護福祉サービスを利用せざるを得なかった場合については、寄与分を主張できる可能性はあります。

 ただし、寄与者として認められるためには、被相続人の財産の維持または増加につき『特別の』寄与をした者でなければなりません。したがって、単に一生懸命介護をしたとか、精神的に支えたということだけでは寄与分は認められません。

 また、「特別の寄与」が認められたとしても、その貢献度をどのようにお金に換算するかの問題もあります。この点、民法では「共同相続人の協議で定めたその者の寄与分」と定めていますが、遺産分割協議は相続人全員の合意があれば法定相続分には縛られませんので、親の介護を献身的に行った相続人に遺産をより多く相続させることについて他の相続人全員の合意があれば、あえて寄与分を主張する必要はないわけです。

 実際には、協議で決まらないからこそ寄与分をあえて主張することになるため、結局は家庭裁判所での調停や審判で判断を仰ぐことになります。そうなると、寄与分を主張する側が、『特別の寄与』であることと、金額の算定根拠を示さなければならないことになります。

3.特別の寄与制度とは

 前述の「寄与分」の制度の対象者は、あくまでも「相続人」のみです。そのため、相続人以外の人が、被相続人の療養看護などにどんなに努めていたとしても、寄与分は認められません。

 例えば、被相続人の長男に嫁いだ人(長男の嫁)が、被相続人と同居していたとします。その後、長男の方が若くして病気や事故などで被相続人よりも先に死亡してしまった後も、その長男の嫁は義父(義母)である被相続人との同居を続け、被相続人の晩年の介護なども献身的に行っていたとします。その一方で、被相続人の実の子である二男や長女は被相続人とは別居で、介護なども、まったくしていなかったとします。しかし、このような場合であっても、長男の嫁は(被相続人と養子縁組をしていなければ)被相続人の相続人ではないため、その遺産を相続する権利はまったくなく、寄与分も主張できません。そうなると、被相続人の家も二男や長女が相続することになるので、最悪の場合、長男の嫁は遺産を何ももらえないばかりか、家も追い出されてしまう可能性すらあります。

 ちなみに、このような場合、長男が健在であれば、長男はもちろん被相続人の相続人となりますし、亡き長男と長男の嫁との間に子が生まれていれば、その子が被相続人の孫として亡長男の代襲相続人となりますので、長男の嫁の介護の労力を長男やその子の寄与分として認めるという運用も、実務上なされていました。しかし、長男は被相続人よりも先に死亡していて子も生まれていない場合は、長男の嫁には相続分も寄与分もないことになります。

 そこで、近年の民法改正によって、相続人以外の親族(例えば長男の嫁)が被相続人の療養看護などを無償でしていた場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して相応の金銭の支払いを請求することができるようになりました。これを「特別の寄与制度」といいます。

 ただし、これが認められるのは「相続人以外の親族」なので、まったくの他人ではだめです。また、相続人として扱われるのではなく、あくまでも「寄与に応じた額の金銭の支払い」を請求できるにとどまります。なお、金額については当事者間で協議して決めますが、協議が調わないときや協議自体をすることができないときは、特別寄与者は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。

○相続人が誰もいない場合は?

 被相続人に関連する戸籍謄本等を調査した結果、相続人が誰も確認できないという事例もあります。例えば、被相続人は独身で(または配偶者と離婚や死別していて)実子や養子もいたことがなく、父母や祖父母はすでに亡くなっており、もともと兄弟姉妹もいないという場合です。また、戸籍上の相続人全員が相続放棄をした結果、相続人が誰もいなくなったような場合もあります。このような場合でも、被相続人が遺言をしていれば、その遺言によって相続財産が承継されますが、遺言をしていない場合は、相続財産が「宙に浮いたような状態」になってしまいます。

 そこで、このような場合、民法では、相続財産自体を法人(相続財産法人)として扱います。これは、相続人が存在しない場合、被相続人の財産は、一時的に「誰のものでもない」状態となりますが、それでは相続財産の管理や清算をする上で不都合が生じるので、相続財産自体を法人ということにして、家庭裁判所がその法人の代表者(相続財産管理人)を選任して管理、清算をさせるという仕組みです。

 相続財産管理人は、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所によって選任されます。利害関係人とは、例えば被相続人にお金を貸していた人(相続債権者)や、逆に被相続人からお金を借りていた人(相続債務者)、被相続人の財産に担保をつけている人(担保権者)、被相続人との間で特別な縁があった人(特別縁故者)などが当てはまります。

 相続財産管理人は相続人の捜索を行うとともに、相続債権者や受遺者、特別縁故者等にも、一定期間内に名乗り出るように公告を行います。また、相続財産から相続債務を返済したり、財産管理費用などを賄ったりします。

 公告期間の満了までに相続人として名乗り出た者が誰もいなかった場合には、相続人の不存在が確定し、本来は相続人であったのにその旨を申し出なかった者は、遺産相続の権利を失います。相続人の不存在が確定すると、相続財産は国庫に帰属、つまり国に「没収」されることになりますが、被相続人と生計を同じくしていた者や、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者がいる場合には、上記3の公告期間の満了から3ヶ月以内に家庭裁判所に請求することにより、清算後に残った相続財産の全部又は一部の分与を受けることができる場合があります。

 なお、実際にどのような人が特別縁故者として認められるかは、すべて個別に裁判所によって判断されますが、内縁の夫婦、事実上の養親子、叔父叔母、継親子、子の妻などのほか、法人や任意団体でも認められた事例があります。また、分与される財産の程度や特別縁故者が複数いる場合の配分についても、被相続人と特別縁故者との関係の度合いや、相続財産の状況など一切の事情を考慮して裁判所が決定することになります。

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