遺産分割協議書の作成

○遺産分割協議書の作成

 遺産分割協議がまとまったら、それを記録として残すためと、不動産の名義変更や預貯金の解約などの遺産の承継手続きや相続税の申告などに使用するために、「遺産分割協議書」を作成します。

 遺産分割協議書には、「相続人の範囲」、「相続財産の範囲」、「分割方法」、「新たに相続財産を発見したときの対処方法」、「作成日付」を明記し、通常は相続人の人数分を作成して、それぞれに相続人全員が署名し、実印で押印して、印鑑証明書を添付して保管しておきます。

1.用紙・部数

 紙の大きさに制限はありませんが、不動産などの名義変更手続きに使用する場合には、A4サイズが便利でしょう。また、最近では縦長横書きで、パソコン等を用いて作成することがほとんどです。遺産分割協議書が数ページになるときは、相続人全員の実印で契印してください。

 遺産分割協議書の作成部数は、各相続人の人数分とするのが原則です。なお、遺産分割協議書は不動産の名義変更(相続登記)の際には管轄の法務局に、預貯金解約の際には各金融機関に提出しますが、原本は通常返却されます。ただし、提出用に予備を作成しておくと、同時並行でこれらの手続きを行うことができます。

 ちなみに、各相続人が保管する分や、相続税申告のために税務署に提出する分の遺産分割協議書については、分割の対象となる遺産をすべて記載するのが原則ですが、法務局や金融機関、証券会社等に提出する分については、その提出先専用に、名義変更の対象となる財産(不動産や預貯金口座、株式)のみを記載して作成した「ダイジェスト版」でも大丈夫です。むしろその方が、被相続人や相続人の個人情報を必要以上に開示しなくても済みます。

 なお、相続人の人数が非常に多く、全国に散らばっているような場合は、相続人全員が一堂に会するのが難しいことがあります。このような場合、遺産分割協議自体は、相続人全員の合意が得られるのであれば、オンライン会議や電話会議、書面の回覧などの方法で成立させても構いません。ところが、合意内容を遺産分割協議書にまとめて、相続人全員が署名押印をしようとすると、文書を順番に回覧する方法では全員の署名押印が揃うのにかなりの時間がかかってしまいます。そこで、このような場合は、遺産分割協議書と同じように遺産の分配方法は記載するものの、署名押印欄は1枚につき1名だけにして、各相続人に郵送して返信してもらい、それを相続人全員分かき集めることで、複数枚で1枚の遺産分割協議書の代わりにするという方法があります。この方式で作成された遺産分割協議書のことを「遺産分割協議証明書」といいます。

2.表題と被相続人の表示

 表題には「遺産分割協議書」と、大きめの文字で表記します。また、冒頭には被相続人の氏名と死亡日、最後の本籍、最後の住所などを記載します。

3.遺産分割の内容と財産の表示

 最初に「上記被相続人の遺産について、共同相続人全員により遺産分割の協議をした結果、次の通り決定した」というような文言を記載します。その後、誰がどの財産を取得するのかを明記していきます。財産の記載方法については以下の通りです。

 不動産の場合、住居表示ではなく登記記録の通りに、土地ならば所在・地番・地目・地積、建物ならば所在・家屋番号・建物の種類・構造・床面積を正確に表記してください。

 預貯金口座は、金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号まで正確に記載します。

 株式については、対象の会社名と株式の種類と株数で記載しますが、同一の証券会社の口座で保有・管理されている株式については、その口座にある株式をすべて一人の相続人が相続するのであれば、個々の株式ではなく、証券会社の会社名・口座名・口座番号で一括して記載することもできます。

 自動車については、車検証を見ながら、自動車登録番号(ナンバープレートの記号や番号)や車台番号を記載して車両を特定します。

 動産については、高額の宝石や骨董品、絵画などであれば、種類や作品名、作者名や制作年代などで特定しますが、それほど高額でない日用品などについては特に遺産分割協議書には記載しないか、「上記建物内にある動産一式」などの要領で記載します。

 また、「本協議書に記載のない財産および後日発見された財産については、○○が取得する」と記載しておくと、そのような財産が出てくるたびに遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作り直す手間を省くことができます。もっとも、この文言を入れることに反対する相続人も一定数いることから、ある程度の財産調査を尽くしたうえで、もうこれ以上は「金目のモノ」は出てこないだろうという状況にしておいたうえでないと、相続人全員の同意が得られない可能性があります。

4.代償金の表示

 遺産分割協議の結果、ある相続人から別の相続人に対して代償金を交付することが決まった場合には、必ず、「誰から誰に対して」「いくらの金額を」「代償金として」「〇カ月以内に」「どのように(現金交付・銀行振込など)」支払うということを明記しておきます。これは、相続人にとっての証拠書類の意味もありますが、税務署から相続人同士での単なるお金の贈与とみなされ、贈与税を課されることを防ぐためでもあります。

5.作成日

 遺産分割協議書の相続人が署名、押印した日付は、遺産分割の協議をした日か、あるいは最後に署名した人が署名した日付を記入するようにしましょう。

6.各相続人の住所の記載・署名・押印

 遺産分割協議書の末尾には、各相続人の住所、氏名を記載し、実印を押印します。記載する順序に決まりはありませんが、被相続人に配偶者がいるときは先頭は配偶者で、あとは年齢順に記載することが多いです。ただし、本来の相続人(被代襲者)が被相続人よりも先に死亡している場合には、本来の相続人を記載すべき場所に、その代襲相続人らを記載しても構いません。

 住所・氏名については、印鑑証明書に記載されている通りに記載します。住所も「-(ハイフン)」ではなく、「〇丁目〇番〇号」などの要領で、正確に記載します。なお、住所・氏名はあらかじめ印刷しておいても結構ですし、住所・氏名とも手書きにしてもよいですが、後日の証拠資料として考えると、相続人本人が自ら署名する方が好ましいと言えます。もっとも、遺産分割協議書は相続人の人数+αを作成しますので、作成部数が多いような場合には、住所まで手書きするのは結構大変です。そのため、実務上は住所は印刷、氏名は相続人本人が署名で作成することが多いです。

 押印は、必ず印鑑証明書の印鑑(実印)を使用します。なお、不動産の名義変更(相続登記)に使用する場合、法務局では少しの記入ミスでも訂正を求めますので、できれば捨印もしてもらった方がいいでしょう。ただし、捨印を押すのを嫌がる相続人がいることもあるので、チェックして間違いがないことを確認しましょう。

7.印鑑証明書の添付

 遺産分割協議書を相続人の人数分作成したら、相続人全員の印鑑証明書とともに保管しておき、必要に応じて不動産の名義変更(相続登記)や預貯金口座の解約、株式の相続などの各種手続きの際に、法務局や金融機関、証券会社などに提出します。これらの提出先からは、遺産分割協議書の原本は返却されることが多いですが、印鑑証明書は原本が戻ってこないところもあります。そのため、印鑑証明書は少し多めに取得しておくことをお勧めします。提出先から帰ってきた遺産分割協議書は、各相続人が一人一部ずつ保管しておきます。

8.遺産分割協議書の作成例

遺産分割協議書の作成例

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